| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S14-5

『融合』か『手法の導入』か?表現型可塑性の進化生態学が新しい遺伝的手法に出会う。

西村欣也(北大・水産)

進化生態学は、特に生物の生活史に注目し、適応論的枠組みで発展してきた。適応論に基づく研究を精緻なものとするために、古典的なメンデル遺伝学や量的遺伝学は、進化生態学の中に融合的に導入された。

遺伝子の物理的基盤が明らかにされ、遺伝学が革命を遂げた当初、生物学の諸分野はその発見に感銘を受けたが、「それはそれ」として、各分野は、すぐに直接的影響を受けることはなかった。しかし、手法の発展にともない、各生物学分野の問題に対する検証の有力な方法が、遺伝学から急速に導入されるようになってきた。

生物を取り巻く環境との関連を通して、生活史の特徴として観察される表現型可塑性は、進化生態学における魅力的な研究対象の一つである。エゾアカガエルのオタマジャクシは、冬の終わりに偶然性を伴い構成される池の食物網中で、危機が高い捕食者メンバーのタイプに応じて、適切に機能する防御形態を可塑的に発現させる。

この生態学的状況は実験室でも再現することができるため、防御形態形成に関わる遺伝子発現調節についての、エコゲノミクスの研究テーマとなりえた。マイクロアレーを用い、捕食者暴露と発現量が相関する遺伝子のスクリーニングを行った。この研究は遺伝子調節を通した防御形態形成メカニズムの解明へと続くべき道程にあり、新しい遺伝的手法の導入により、生態学的研究が発生学的研究に受け継がれたものとも位置づけられる。

私たちは、「エコゲノミクス」と言う前途有望なスローガンを耳にしながら、使える新しい手法として、分子遺伝学が進化生態学に導入される場面や、分子生物学に鼓舞された発生学と進化生態学が強い接点を持つ場面に直面している。本講演では、進化生態学と分子遺伝学の融合や統合のイメージについて考えてみたい。


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