| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S15-1

自然条件下における遺伝子機能解析:複雑に変動する気温と季節調節

工藤洋(京大)

遺伝子は、それぞれの生物が生育する自然環境下で機能している。コンテクストアプローチとは、自然の生育地条件下での(あるいは自然条件を考慮した)研究である。本講演では、シロイヌナズナで明らかにされてきた開花調節機構を題材に、コンテクストアプローチでおこなった研究を紹介する。気温と日長は、植物が季節を感知するための主要な要因である。日長が暦に従って予測性の高い季節変化を示すのに対して、気温の季節変化は長期傾向としてのみ現れる。そのため、植物が気温から季節を感知するためには、短期の気温変動を無視して長期の傾向のみに応答するような分子メカニズムが必要である。本研究では、ポリコームグループ(PcG)タンパクが介在して発現調節がされている転写因子FLOWERING LOCUS C (FLC)が変動する気温を長期間にわたって統合的に感知する主要メカニズムとして機能していることを示した。多年生のシロイヌナズナ属植物であるハクサンハタザオの自然集団を対象に、野外に生育する個体のFLC転写量をほぼ1週間おきに約2年間にわたって継続測定した。FLC 転写の抑制と上昇がともに温度依存性を示し、転写量は年間を通して過去6週間の温度環境に強く関連していた。FLC 転写量は栄養成長から繁殖生長への移行時期に対応しているだけでなく、逆方向への移行とも対応していた。FLCは単に冬の記憶としてだけでなく、長期間の温度変動を量的に記憶するというより包括的な役割を担っていると結論した。この研究は、環境応答のメカニズムをコンテクスト依存的な機能として評価することの重要性を示した。さらに、遺伝子の機能解析においてコンテクストアプローチが果たす役割について議論する。


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