| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S15-5
高山生態系では、雪渓の非同調的な雪解けが生物の季節性や生育期間の異なる局所環境を形成しており、フェノロジー構造が異なる局所群集が雪解け傾度に沿って連続的に成立している。高山生態系の雪解け傾度は、植物の繁殖成功や遺伝構造に対するフェノロジーが持つ生態学的重要性を評価するための優れた野外実験場でもある。雪解け傾度を用いたこれまでの送粉系に関する研究では、開花時期の変動に伴うマルハナバチの季節的活性の違いが、個々の種個体群の質的・量的な送受粉成功の選択圧として重要であることが示されている。しかし、その多くは特定の植物種とポリネーターとの一対一の関係を比較したものであり、マルハナバチを巡る植物種間の競争を考慮した研究は乏しい。景観レベルでの開花フェノロジー構造は、雪解け傾度に沿った植物群集の季節性の違いや、群集構成種固有の開花フェノロジーを反映して、時空間的に大きく変化する。ポリネーターは高山生態系内の開花フェノロジー構造の季節変動に対応して、訪花パタンを決定する。その結果、多種の開花フェノロジーの組み合わせの中に、複雑な種間相互作用が成立している。特に、優占種の開花構造は、非優占種の受粉成功に強く影響を及ぼすであろう。しかし、その競争形態は個々の種が有する繁殖特性(群集内での相対的な開花スケジュール、ポリネーターへの報酬、交配システムなど)に依存すると考えられるので、優占種の影響は種間で異なると予想される。この講演では、北海道大雪山系の高山帯において、開花スケジュールや交配システムの異なるマルハナバチ媒の草本植物3種を用いて、優占種であるツガザクラ属植物の開花構造に着目したマルハナバチを巡る競争形態の季節的変化について報告する。さらに、もうひとつの選択圧である、生育シーズンの制約に対する開花フェノロジー調節の可能性について検討する。