| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S15-6

一斉開花の森にみる植物ー動物相互作用

*酒井章子(地球研), 鮫島弘光(京大)

東南アジア熱帯の非季節性低地フタバガキ林では、多くの植物種が同調して開花・結実する一斉開花現象が知られている。一斉開花がおこると数ヶ月の間に多くの植物が開花するが、それ以外の時期には、林内にごくわずかの花や果実しか見ることはない。わたしたちは、1992年からボルネオ島のランビル国立公園で植物フェノロジーの観測を行い、この現象について研究してきた。これまでの研究から、一斉開花は不規則な乾燥によって引き起こされること、フタバガキ科以外の多様な植物種が一斉開花に参加すること、などがわかっている。

一斉開花によってもたらされる不規則な花資源、果実資源の変動は、それを利用する動物の個体数変動や、動物と植物の関係にも大きな影響を与える。たとえば、花資源を利用する動物の多くは送粉者として植物の繁殖に貢献するが、普段花資源の乏しい森林で一斉開花時に十分な送粉サービスがどのように供給されるのかは、大きな謎であった。ランビルの植物の送粉システムを調べてみると、鞘翅目、膜翅目、鱗翅目など、さまざまな昆虫が主要な送粉者であった。送粉者は、一斉開花時に著しい個体数増加を示すものから、花以外の資源を利用して非一斉開花期をのりきり大きな個体数変動を示さないもの、非一斉開花期には他の森林ですごし一斉開花になるとフタバガキ林にやってくるものなど、いろいろなパターンが見られた。種子捕食者についても、よくにた反応パターンの多様性があった。わたしたちは、このような植物資源の予測性の低い群集では、種特異性や予測性の低い動物−植物関係が成立していると考えており、一部の分類群ではそれを支持するデータも得られている。不安定な動物−植物関係はまた、生態系の脆弱性の要因となっているかもしれない。とくに近年急速に拡大しているプランテーションは、低地フタバガキ林における動物−植物の関係を大きく変えている可能性がある。


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