| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S16-5

市民で行う全国規模の里やま生物多様性健康診断並〜モニタリング1000の取り組み

*高川晋一,福田真由子,廣瀬光子(日本自然保護協会)

里やま(里山、里地)は、生物多様性の保全上重要な環境であると広く認識されているものの、面積が広大な上に多くが私有地であることなどから、その生物多様性の現状・変化のモニタリングの実現が課題となっていた。日本自然保護協会では、各地域で活動する市民こそが調査・保全の主体として最もふさわしいと考え、調査の手法や体制を確立し、その普及に努めてきた。2005年からは環境省の「モニタリングサイト1000里地調査」としても全国的な調査を展開しており、全国196ヶ所のサイトで植物や鳥類といった9項目の調査を実施している。現在調査には1000人以上が参加し、各地域で自然観察や保全活動に取り組む市民団体を中心として、プロの研究者や、企業、農家など多様な主体が参加している。

多くのサイトがまだ1年分のデータしかないが、既に20万件以上のデータが蓄積され、全国の里やまの生物多様性の現状・パターンを把握する基礎データが得られた。また複数のサイトで、アライグマなどの特定外来種をはじめとして、これまでの調査で記録がなかった種を初確認することができた。今後は、生物多様性の多面的な側面を捉えられるような約20の指標に注目して解析することで、膨大なデータから迅速に、生物多様性の定期的な健康診断を実施していく予定である。

これらのデータは、ホットスポットやコリドーを考慮した保護区の設計、多様性への影響予測に基づく土地利用計画の作成、外来種の早期的な駆除計画の立案など、他の保全施策にも十分利用可能である。しかしそのためには、他の行政施策へ計画的に活用される仕組み作りや、広域スケールでのパターン解析や各サイトの技術的支援を実現するための研究者・博物館等との連携などが課題として残されている。本講演では、このプロジェクトの概要と、データや体制が持つ可能性や今後の課題について発表する。


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