| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S19-1
北茨城の小川群落保護林(コナラ、イヌブナの優占する落葉広葉樹林)では、種子から成木に至る樹木の個体群動態パラメータ(成長率や死亡率など)を推定するために、これまで23年間、測定がおこなわれてきた。ここは冷温帯林でありながら6haのプロット内に50を超える樹木種があり、主要とみなされる樹種は20種近い。その中で、たとえばコナラは、当年生実生は分布するが、樹高2m前後の稚樹がなく、このステージでのパラメータの推定ができない。一方で、稚樹はあるが中径木を欠く樹種もある。このように23年間の観測でも、樹種によってはサンプルが不完全でパラメータの推定はできなかった。
しかし、ベイズモデルが身近になり、階層化による種ごとの推定や、隣り合うサイズクラス間での自己相関を考慮した推定をおこなうことで、今までは諦めていたパラメータ推定が可能となった。本報告では、一番単純なマトリックスモデルのパラメータを推定し、18種の個体群動態を比較した結果を紹介する。
λについては、ウリハダカエデ、イタヤカエデ、オオモミジ、ブナ、ミズキがこの順番でトップ5となり、クリ、ミズメ、ミズナラ、コナラ、クマシデの順にワースト5であった。事前の予想では、ブナとイヌブナが最も高い増加率を示すと考えていたが、予想に反してカエデ属3種がもっとも高いλを示した。
弾力性分析については、実生・稚樹、壮齢木、高齢木の3段階にわけて値を計算したところ、系統的に近い種はよく似た傾向を示し、カエデ属は実生・稚樹と壮齢木の弾力性が高く、ナラ類やクリは高齢木の値が高いという共通点があった。
試験地で得られたデータは非空間モデルにとどまらず、空間構造を明示的に取り入れたモデルにも適用できる。試みとして、種ごとに推定した散布カーネルと上記のマトリクスモデルと連携した解析結果も紹介したい。