| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T03-2
反応基準は生活史進化の中心的概念の一つである.反応基準の進化に関する理論や実証研究の多くは,反応基準の形の進化,すなわち可塑性の進化に注目してきた.反応基準の形の変異は,表現型分散の成分で表すと,遺伝子型と環境との相互作用として表される.しかし,反応基準の変異には,反応基準の高さの変異もある.もしある環境に特定の高さの反応基準をコードする遺伝子型が偏在する場合,その偏在によってもたらされる環境間の表現型分散の成分は,遺伝子型と環境との共分散として表される.この共分散は,表現型値に対する遺伝子型の効果と環境の効果とがパラレルになる(例えば,体サイズを大きくする遺伝子型が体サイズを大きくする環境に多い)‘cogradient variation(CoGV)’と,遺伝子型の効果と環境の効果とが逆行する(例:体サイズの大きい遺伝子型が体サイズを小さくする環境に多い)‘countergradient variation(CnGV)’とに分けられる.環境温度に対する反応基準(=温度反応基準)の地理的変異に関する知見の近年の蓄積により,CoGVは形態形質に多く見られ,CnGVは生理的形質に多いことが指摘されている.CoGVもCnGVもある環境に特定の遺伝子型が多いという地理的変異パターンであるので,どちらも適応進化の結果と考えるのが妥当である.では,なぜ形態形質と生理的形質とで真逆の共分散が進化するのだろうか?演者は,温度反応基準の形の進化における遺伝的制約がその原因ではないかと考えている.講演では,メダカの様々な形態形質と生理的形質の温度反応基準の緯度間変異を紹介しながら,その是非について議論する.また,温度反応基準の進化の制約がどのくらいのタイムスケールで解放されるかについても論じ,温度反応基準の進化の不連続性と生物の地理的分布境界との関係にも焦点を当ててみたい.