| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T03-3

温度−サイズ則の適応的意義を探る

*入江貴博(琉大・熱生研)

温室効果ガスに起因する地球温暖化の懸念を背景として、欧州では外温生物の温度適応に関する研究集会が近年頻繁に開催されている(cf. http://www.esf.org/thermadapt)。特に決定成長の分類群を対象とする研究者の間では、低い温度環境で育った外温動物が長い成長期間を経て、より大きな体サイズで成熟するという反応規範の適応的意義が古くから議論の対象となってきた。この温度反応規範は「温度-サイズ則」(temperature-size rule)と呼ばれ、分類群の壁を越えて広く観察されている。この経験則が自然選択によって変更されざる拘束(constraint)の産物であるという可能性は、主に昆虫を対象とした実証研究によって繰り返し否定されてきた。その一方で、この普遍的な反応規範を進化的に支える適応的意義を説明する数多くの(相互に背反しない)仮説が提唱され、百家争鳴の様相を呈している。本講演ではまず、これまでに提唱された代表的な仮説とその検証事例を紹介する。温度-サイズ則に関する実証研究はこれまで主に昆虫を材料として進められてきたという経緯がある。従って後半では、昆虫以外の分類群に対する研究の一例として、潮間帯に棲む決定成長の腹足類(有殻の軟体動物)を対象とした私自身の研究成果を紹介する。貝殻の材料であるCaCO3は温度が低くなるほど結晶化に要するコストが増大するため、石灰化を行う外温動物は温度-サイズ則に従わない可能性が指摘されている。それに関わらず、対象とした種(ハナビラダカラ Monetaria annulus)は温度-サイズ則に従うことが飼育実験によって明らかにされた。この事実を前提として、陸上生物とはまったく異なる生態学的背景を有する海洋ベントスが温度-サイズ則に従うことの適応的意義を突き止めることを目的とした現在進行中のアプローチについて述べる。


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