| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T21-2

集団の空間構造の違いにより変化するアリー効果の現れ方

佐藤一憲(静岡大・工)

健全な生態系を持続させるためには,アリー効果を無視することはできない.それは,何らかの原因によってアリー閾値を下回るほどに個体数が減少すれば,その種は確実に絶滅してしまうからである.現実の生態系ではアリー効果の現れ方は様々であるし,その原因を特定することは困難な場合が多いが,それを模倣した仮想的な生態系について,数理モデルを使ってアリー効果の影響を調べることは,将来にわたって起こりうる可能性を示唆する上で極めて有効であろう.これまでに,アリー効果を入れた様々な数理モデルが提唱されてきた(Courchamp et al. 2008).その一つとして,Amarasekare (1998)のモデルはアリー効果のあるメタ個体群モデルであるが,古典的なLevins (1969)の1種のメタ個体群モデルにアリー効果を導入したものである.したがって,空間的な構造は,概念的に暗に取り入れられてはいるだけで,明瞭な形式としては与えられていない.Sato (2009)は,このタイプのモデルを規則的な1次元格子空間上で取り扱った.その結果,近接相互作用をする局所個体群の間でアリー効果が働いていても,メタ個体群全体としてはアリー効果が現れないことがわかった.また,Amarasekare型のモデルに比べてメタ個体群全体として絶滅しやすくなる.ここでは,相互作用の範囲を広げたり,2次元以上の空間にすると,どのような結果が得られるのかについて紹介する.さらに,相互作用の起こり方が不均一な場合はどうなるであろうか.集団がもつ空間構造の違いによってアリー効果の現れ方が異なることは,現実の生態系の保全をアリー効果の観点から考える場合に,局所的な観測だけから全体のダイナミクスを予想することの難しさを示唆するとともに,慎重な対応が必要であることを提起している.


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