小さく分断された植物個体群では，大きな個体群に比べて種子繁殖が制限されることが，よく知られている。多くの場合，そのメカニズムは明らかではないが，個体群サイズ（や密度）の減少による送粉効率の低下や自家不和合性遺伝子の減少など，アリー効果に起因する部分も少なくないだろう。このため，個体群サイズを減少させる生育地の分断化は，アリー効果による繁殖成功の低下，さらには残存個体群の局所絶滅を導く可能性が指摘されている。しかし，種子繁殖量の変動は，個体群動態に必ずしも大きく作用しない。多年生植物のデモグラフィーでは，繁殖（加入）量の変動に対する個体群成長率の弾力性が，成長率と正の相関関係を示す傾向がある。したがって，衰退が懸念される個体群の保全では，個体数そのもの（つまり，アリー効果）よりも生育環境に対して保全努力を払う方が効果的かもしれない。逆に，一度衰退した個体群を素早く回復させるとき，復元のために導入個体群を成長させるときには，（生育環境に加えて）加入量を増やすことに保全努力を払う必要があるだろう。本講演では，このようなアリー効果に関わる先行研究から，希少種の保全や復元に対して，どのような示唆を導くことができるかについて考える。