| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T21-4
近年、生態系エンジニアが外来種として導入された際に、生態系や群集の構造を著しく変化させることが数多く報告されている。物理的環境を変えることで自身の成長を促進する生態系エンジニアには、しばしば正のフィードバックによるアリー効果が働く。では、このアリー効果の強さは何によって決まっているのだろうか? アメリカザリガニは世界各地に侵入し、高密度化することで水草や水棲動物を大きく減らす。ザリガニによる水草の切断は、水棲昆虫などの餌動物の隠れ家を喪失させ、自身の採餌効率を高める働きがあると考えられている。つまりザリガニにはアリー効果が生じる。一方で、ザリガニは系外資源であるリターの流入に支えられていることが明らかになっている。そこで本研究では数理モデルを用いて、リター流入がザリガニと餌動物の動態に与える影響を明らかにする。リター流入率の変化に伴い、ザリガニと餌動物は様々な反応を示す。特にザリガニ絶滅・餌動物高密度の平衡点と、ザリガニ高密度・餌動物低密度の平衡点がともに局所安定であるという代替安定状態(alternative stable states)を導くことがある。このとき、リター流入率がある閾値より大きくなるとレジームシフトが生じ、ザリガニの大発生と餌動物の激減が引き起こされる。このレジームシフトは、系外資源であるリター流入がザリガニのアリー効果を強いアリー効果から弱いアリー効果に変えることで起こる。さらにこのモデルを用いて、リター流入の制御をザリガニの駆除と組み合わせて行うことで、ザリガニを高密度から低密度の状態へ効果的に復元できることを示す。他の外来生態系エンジニアもまた系外資源に支えられているため、ここで示したレジームシフトの仕組みは一般性が高いと考えられる。系外資源の制御が生態系の復元に対して重要な貢献を果たすかもしれない。