| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T22-3
全球単位で陸域生態系に流入する窒素240Tgの中で、農業は120Tg(うち化学肥料80Tg)を占める。平均すると農地以外には平均8.5kg/haの窒素フラックスがあるのに対し、面積で1/10を占めるにすぎない耕地には86kg/haの窒素が集中している。自然界でリンを積極的に動かすシステムはなく、年間12Tgが鉱石として採掘され平均8.6kg/haが農地に投入されているのみである。よって、農地は窒素・リンが集中するホットスポットである。日本は多くの食飼料・肥料を輸入しているが、1960年には農地を介して循環的に窒素・リンは利用されており環境への負荷は少なかった。しかし1986年には生産低下と輸入拡大により循環は崩壊し環境負荷が増大したといわれる。2005年の日本の農地での窒素収支をみると、138kg/haの窒素(化学肥料92kg/ha・窒素固定23kg/ha・ふん尿堆肥23kg/ha)が農地に投入されており窒素量で68kg/haの食飼料が生産され、20kg/haが脱窒で失われていた。農地で過剰となる50kg/haと18kg/haの未利用ふん尿、堆肥化過程で失われる104kg/haの窒素は何らかの形で環境に影響を与えると考えられる。リンに関しては43kg/ha・14kg/haが化学肥料・家畜ふん尿堆肥の形で投入されており、11kg/haの食飼料が生産されているにすぎず、多くのリンは土壌中に残存・蓄積している。リンの多投入により農地土壌中のリン賦存量は自然賦存量の倍にまで増えたが、有効利用の技術開発は古くて新しい話題のまま日本の農地は国際的な戦略資源であるリンの墓場となっている。今回はこうした窒素やリンの農地を中心とした循環と収支が、過去から現在にかけて国内外でどのように把握され、評価されてきたかに関して概観し将来展望を論じる。