| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T22-6
Agroecologyは1980年代に欧米で生まれた学問分野である。多くの先駆的な研究者のモノグラフを紐解くと、行き過ぎた商業主義の集約的農法の反省から始まった経緯があり、よくCox & Atkins(1979)「Agricultural Ecology」が原典だとされる。世界的には、Cornell派、Michigan派、UCSC派、Ohio派、Minnesota派など米国派、それ以外にも海外に広がりを見せ、それぞれが地域社会現場を持ち生態学の一分野を担っている。わが国でもこの20数年来、先駆者の影響を受けた日本人は著者を含め、生態学だけでなく農学分野に浸透している。その多くは有機農業の研究者と重なっているが、それはAgroecology全体からすると、一部の重なりに過ぎない。実は、Cox & Atkinsは、商業的集約農法の対極として、世界の各地域に根ざしてきた生活農業の生産形態の比較分析を行い、その重要性を唱えた。生活農業(subsistence agriculture)は、暮らし(livelihood)を基盤に置くが、それと単作的な商業農業を比較分析して食料生産のあり方を顧みようとした。例えば、有機農業でも水稲作ばかりに目を向けて、生態学の手法を用いてもAgroecologyだろうか? 話題の有機栽培植物工場はどうであろうか? 水田の生物多様性を研究するだけで、暮らしと結びつかなければどうなのであろうか? 日本的、アジア的なAgroecologyがあるならば、如何なるものであるのかについて、1983年Agroecologyに出会って以来の遍歴を顧みながら論じるが、「小さいことはいい事?」という共通テーマがベースにあったように思う。小さい農業、小さい農山漁村の中の多様性に潜む技能を学究し、持続的な暮らしに活かす方策を探求する。ただの農山漁村の生態学が、わが国風の道なのだろう。