| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T23-2
生物間相互作用は、暗黙のうちに「種」を単位として群集生態学で定義されてきた。「種」の性質(形質)は不変のものとされ、可塑性や進化による変化の影響は無視されてきた。しかし、生物の性質が可塑性や進化によって、急速に変化することが広く認知されるようになってきたため、「形質不変」の前提はより包括的な前提に取って代わられるべき時が来ている。
では、構成種の性質が変化するという仮定のもとで、どのように群集を捉えるべきであろうか? 本発表では、生物種間の進化的な関わり(共進化)の視点から、進化生物学を群集生態学に取り込む際に必要となるインフラについて考えたい。
共進化は個体群と個体群の間で起こる現象である。たとえば、ある植食者の適応度は、同所的な寄主植物個体群の形質(二次代謝産物の量など)分布に依存している。その場合、植食者の局所個体群および植物の局所個体群における表現型分布(頻度)が、相手種にとっての「環境」となる。片方の種における対立遺伝子頻度の変化は、もう一方の種に働く自然選択の方向や強さを変える。そのため、両者の個体群内における対立遺伝子頻度は刻々と変化することになる(「赤の女王仮説」)。つまり、共進化に目を向ければ、生物間相互作用とは、本質的に個体群レベルの現象なのである。
さらに、局所個体群の対立遺伝子頻度は、近隣個体群間での遺伝子流動によって影響を受ける。こうした観点から、メタ群集の動態を記述する際、各種の対立遺伝子レベルにおける移入・移出を考慮し、局所群集における進化的動態を組み込むことが望まれる。発表者が取り組んでいるヤブツバキとツバキシギゾウムシの軍拡競走を例にしながら、メタ個体群(群集)における共進化が局所個体群の生態学的な現象(生物間相互作用の様相や個体群動態)をどのように変化させるのか考えたい。