| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T23-5
食物連鎖の長さは生物群集の安定性や物質循環を左右する生態系の重要な特質の1つである.長年生態学者たちは食物連鎖長の決定機構の解明に取り組んできたが,決定的な答えは未だない.従来の仮説は一次生産性や撹乱の影響を指摘しているが,それを支持する野外例は限られる。その一方で最近は生態系サイズ(湖水体積や島面積)が重要な決定要因として指摘されている.
そこで本発表では,一次生産性や撹乱、生態系サイズが食物連鎖長を決めるしくみを探った野外研究と理論研究を紹介する.まず,カリブ海バハマ諸島の陸上生態系にて,野外の食物連鎖長への撹乱と生態系サイズの影響を調べた.この陸上食物連鎖は,植物,植物食者,中間捕食者(クモなど),高次捕食者(トカゲ)から構成される.生態系サイズが小さい場合,撹乱の弱い島ではトカゲがクモを捕食排除するが,撹乱の強い島ではトカゲは存続できず上位捕食者はクモに代わる.しかしトカゲとクモの栄養ポジションは同程度なため,撹乱によって食物連鎖長は変化しない.その一方で生態系サイズが増加するとトカゲとクモは共存でき,トカゲの栄養ポジションが増えることで食物連鎖が長くなっていた.
また,空間構造を考慮したギルド内捕食系の数理モデルを用い,一次生産性,撹乱,生態系サイズの3つの要因が複合的に食物連鎖長を決定するメカニズムを調べた.一次生産性の傾度に沿って食物連鎖長は単峰型の反応をする.また撹乱の傾度に沿っても食物連鎖長は単峰型の反応を示すことがある.このように一次生産性や撹乱は食物連鎖長を長くする場合も短くする場合もあるが,生態系サイズは一貫して食物連鎖を長くする傾向を示した.この結果は,一次生産性や撹乱が関与するエネルギー制約や群集動態の不安定性を生態系サイズが緩和することによって生じていると考えられ,野外研究の結果とも整合している.