| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T24-1
本講演では,この企画集会のイントロとして,DNAバーコーディングに関する最近の情勢について,昨年11月にメキシコで開催されたDNAバーコーディングの国際会合での話題を中心に紹介したい.
会合からみえてきた情勢として,プロジェクトの更なる拡大,情報蓄積の加速,解析システムの充実,新しい技術の応用,そして研究・業務への応用があげられる.プロジェクトに関しては,包括的な同定支援システム構築プロジェクトInternational Barcode of Life(iBOL)が2010年に正式発足する.多くの国々が参加を表明し,中国,ヨーロッパでは大規模なプロジェクトが立ち上げられたが,日本は未参加のままである.分類群やテーマごとのプロジェクトも増加しており,国・地域の別プロジェクトと補完しつつ情報蓄積が進んでいる.懸案だった植物の標準バーコード領域も本会合でmatKおよびrbcLの組み合わせに決定し,今後植物の情報の蓄積も進んでいくだろう.実際の同定支援情報システムの整備も進み,本技術の情報システムであるBOLDでは,様々な領域の塩基配列情報を蓄積するデータベース,同定支援システムおよび解析ツールの提供をはじめている.技術に関しては,次世代,次々世代シーケンサとの組み合わせに注目が集まっている.
このように,国際的には飛躍的な速度でDNAバーコード情報の蓄積が進んでおり,チョウやガの仲間の一部などでは,業務に利用可能な精度の情報が集まりつつある.今後は,生態学的研究においても,サンプルの同定結果の担保,生物モニタリングの同定プロトコル,遺伝的多様性の新たな指標など様々な形での利用が進み,その重要性は増していくと思われる.一方で,国としての取り組みが行われていない日本の現状は憂慮すべきであり,情報基盤整備の重要性をさらにアピールしていくことが必要である.