| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T26-1
1973年の米国絶滅危惧種法 (ESA) 施行以来、30年以上を経過した今、様々な方面からこの法律の評価が行われてきた。この法律は保全生物学における2大パラダイムである小規模個体群パラダイムと個体群減少パラダイム (Caughley 1994) のうち前者を扱っており、生物多様性保全に関する実効性に疑問を投げかける意見もあるが、世界的に見て絶滅危惧種の保護をここまで強力にそして包括的に行おうとする試みは稀である。この法律は、連邦政府機関間の調整、個人および行政機関による捕獲行為(take)の禁止、利害関係人による種指定手続きの申し立てなど、種の保護にとって効果的な様々な方法を持つが、もう一つの特徴として、現在の最善の科学的情報 (best available science) に基づき様々な判断を行うことを義務付けていることが挙げられる。またそのために、実際に法律を運営する米国野生生物部 (USFWS) と米国海洋大気庁 (NOAA) では独自に多数の科学者を雇用して独自の研究を行うと同時にESAの各種業務に当たらせている。
この法律と科学の接点は4つに集約される。1) 種指定の検討、2) 重要生息地の抽出、3) 回復計画の作成、4) 連邦政府機関に対するコンサルティング。本発表ではこのうち、多数の科学者が関係し、常に最善の科学的データだけが判断に使われるよう配慮されている1を取り上げ、ESA下における保全と科学の関係、特に保護対象設定の科学の歴史的変化とそれに対するESAの対応を吟味し、野生生物を実際に保全する際、何を保全の対象とするか、また対象の保全をどのような仕組みで行っているか概観する。加えて、指定種の保護が2および3を通しどのように進められているか具体的な例を挙げ、米国における絶滅危惧種保護と科学の関係を紹介する。