| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T30-3

微生物食物連鎖の分子生物学的解析:メタン酸化を例として

村瀬潤(名古屋大学大学院生命農学研究科)

近年の分子生物学的手法の導入によって、環境微生物の新しい姿が示されつつある。同時に、これまで十分な知見が得られていない課題に改めて挑む機会が巡ってきたともいえる。本発表では、水田土壌におけるメタン酸化をめぐる微生物群集の構造と機能について、特に原生動物の捕食作用に注目した研究成果を報告する。1)RNA-SIP法を用いたモデル実験でメタンを利用する微生物群の解析を行ったところ、メタン酸化菌の他、繊毛虫、鞭毛虫、アメーバなどの原生動物がメタンを利用していることが明らかとなり、メタンが起点となって駆動する微生物食物網の存在が示唆された。メタン濃度は原生動物相の構成に影響を与えた。2)培養法によって土壌原生動物によるメタン酸化菌の捕食性を試験したところ、TypeIIよりもTypeIのメタン酸化菌が捕食されやすいこと、同じ属であってもメタン酸化菌の間で被捕食性に差があることが示唆された。また、原生動物種の違いによるメタン酸化菌への捕食スペクトルの差も認められた。3)13Cラベルしたメタン酸化菌を用いたPLFA-SIP法による解析により、メタン酸化菌のバイオマスは土壌に添加して24時間以内に原生動物に取り込まれることが示された。また、メタン酸化菌の種類によって取り込みの程度が異なることが確かめられた。4)メタン酸化菌群集に及ぼす原生動物の捕食の影響を、殺菌土壌への再接種実験により検討した。pmoA遺伝子を対象としたマイクロアレイ解析により、原生動物を接種した土壌ではType IIのメタン酸化菌群が独占的に検出されたが、原生動物を接種しない土壌では、Type Iのメタン酸化菌の優占度が著しく高まることが明らかとなった。RNA-SIP法による解析により、接種した原生動物がメタン酸化菌を捕食しており、その依存度は個体レベルで異なることが示唆された。


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