| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T30-4

RNAから探る生命現象:網羅的遺伝子解析

石井伸昌・府馬正一(放射線医学総合研究所)

放射線医学総合研究所(放医研)ではヒト以外の生物や生態系に対する放射線影響研究を行っている。本講演では、生態系に対する放射線影響評価の足がかりとして行った環境真核微生物の網羅的遺伝子発現解析について述べる。

生態系は様々な生物種が集まり、互いに関係し合いながら構築されている複雑なシステムである。そのため、生態系に対する影響評価を行う場合、個体や個体群を対象とした研究に加え、生態系全体の反応を見渡すことも重要である。生物は放射線等の刺激に対し遺伝子発現のレベルで反応するため、まず微生物群集を対象に網羅的な遺伝子発現解析を行った。遺伝子発現解析には様々な手法があるが、本研究では放医研の安倍らによって開発されたHigh Coverage Expression Profiling(HiCEP)法を用いた。この方法はマイクロアレイ法のように予め配列情報を必要としないため、環境生物を対象とした網羅的遺伝子発現解析に有効である。

研究対象として水田の微生物に着目した。水田マイクロコズムにガンマ線を照射した後、RNAを抽出し、遺伝子発現解析を行った。その結果、照射サンプルにおいて14,169の遺伝子発現ピークが得られた。このうち発現レベルが上がった遺伝子は250あり、これにはユビキノール‐チトクロームcレダクターゼ等が含まれていた。一方、発現レベルが下がった遺伝子は85あり、ロイシン脱水素酵素やジピコリナート合成酵素などが含まれていた。この様に、HiCEP法は得られたピークから遺伝子を特定することも可能であり、影響評価研究に限らず、自然環境の様な複雑な系全体の遺伝子発現を観察するための有効な手法の一つと考えられる。


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