| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) A1-02

ブナの「花見」でクマ出没を予測する

井田秀行(信州大・教・志賀自然教育研)

ブナ林が山林を優占する長野県飯山市において,リタートラップで把握したブナ繁殖器官(雄花序,雌花序,堅果)の生産量とツキノワグマ有害捕獲数との関連性を検証した。同市内のブナ林3サイト[C:極相林(標高1000m),R:里山林(同540m),S:社寺林(同320m)]にリタートラップ(開口面積0.5m2)を5〜6基設置し,2004年から2010年にかけて連続してブナ繁殖器官の落下状況を観測したところ,年間総落下量(年間生産量)はサイト間でばらつきはあるものの,年次変動のパターンはサイト間で同調することが示された。特にクマ有害捕獲数が大量(17〜36頭)となった'06,'08,'10年は,3サイト共にブナの雌・雄花序,堅果のどれもが他の年に比べて非常に少なくなっていた。このことは,ブナの繁殖器官の生産量が少ない年は人里へのクマ出没が多発しやすいことを示唆するが,夏季(6〜8月)のクマ有害捕獲数に注目すると,ブナ繁殖器官の生産量との関連性はどのサイトでも認められなかった。一方,秋季(9〜11月)のクマ有害捕獲数でみると,サイトR,Sでの雌・雄花序数およびサイトCでの堅果数との間に負の相関関係が認められた。このことはすなわち,ブナ里山林で春に開花が少なく奥山のブナ極相林で秋に堅果が不作だとクマが秋季に人里に出没多発する傾向があることを示唆する。

以上から飯山市では,春(4〜5月頃),人里近くのブナ林の開花状況を観察することで,秋季の人里へのクマ出没をより早期に予測できると言える。現在,クマ出没の予測はブナ科堅果の豊凶状況(堅果の成り具合)の観測によってなされることが多いが,本研究により,ブナが優占する地域では,ブナの開花状況のモニタリングが秋季のクマ出没多発の予測に有効であることが示された。


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