| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) A1-11

イネ害虫アカスジカスミカメ個体群の実験的分断化による抑制効果

*吉岡明良(東大・農),高田まゆら(帯畜大),鷲谷いづみ(東大・農)

近年、日本の水田で最も猛威をふるっている害虫の一つであるアカスジカスミカメ(以下アカスジ)は、イネ科植物の穂を餌ならびに産卵場所として利用する。したがって、稲の出穂時にのみ水田に侵入するが、水田ではほとんど繁殖できない。すなわち、水田には一時的なシンク個体群のみが存在する。したがって、従来の圃場レベルでの防除は、コストに比して効果が低い。むしろアカスジの発生源(主要な生息場所)と考えられているネズミムギの転作牧草地をイネの出穂前に刈り取ることで、農薬にたよることなく被害を抑制できる可能性がある。

減反政策により広範に存在する転作牧草地を全て刈り取り管理することは必ずしも現実的ではない。しかし、メタ個体群理論(Hanski 1999)に基づけば、適切なスケールで生息場所の分断化をもたらすように刈り取ることで、より効率的にアカスジのメタ個体群サイズを抑制できるはずである。

環境保全型稲作先進地である宮城県大崎市田尻において演者らが2008年度に行った調査では、アカスジは周辺200m程度の範囲内のネズミムギ牧草地面積率が高い地点ほど密度が高く、一定面積の牧草地を刈り取り管理する場合には、200m程度のスケールで分断化の効果をもたらすように刈り取ることの有効性が示唆された。

本研究ではその仮説の実験的な検証のため、半径400mの調査区を6区設定し、刈り取り面積を変えることで、各調査区内の牧草地の分断化の程度を操作した。その結果、操作後のアカスジ密度は分断化の程度が低い調査区ほど高かった。これらの結果から、保全生態学に用いられるメタ個体群理論が多食性の害虫の防除に応用できる可能性が示唆された。


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