| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) A1-13
わが国における農薬のリスク管理は、定められた試験生物を用いた個体レベルの室内毒性試験に基づいて実施されており、実際の生態系からの乖離が問題視されている。しかし、野外において農薬の影響を分離・特定する手法は確立されていない。そこで、水生植物が分布する農業水路でモニタリング調査を行い、除草剤の濃度と連動する水生植物の被度の季節変化を指標として高リスク除草剤の推定を試みた。
茨城県つくば市周辺域の農業水路に調査区(10地点)を設置し、2010年の3月から9月にかけて、隔月で出現種(藻類を除く)別の被度と水質(水位、流速、EC、pH、水温)の調査を行った。また、同地点において4月から8月まで毎月1回(5, 6月は毎週1回)表層水を採取し、主要な水稲用除草剤であるスルホニルウレア系除草剤(SU剤)5有効成分の濃度をHPLC-MS/MSを用いて分析した。高リスク除草剤の推定には、種別の被度を目的変数、調査時期別の除草剤強度(SU剤有効成分の濃度をそれぞれ標準施用量で除した値)を説明変数とし、調査時期別の水質5項目、調査時期、調査区を共変数とするモンテカルロ並べ換え検定を行った。
調査区にはそれぞれ、沈水植物のエビモ、オオカナダモ、コカナダモ、ササバモ、セキショウモ、半抽水植物のオオフサモ、コウホネが優占していた。SU剤は、どの調査水路でも、5月中旬から下旬にかけて、いずれかの有効成分が最高濃度を示した。水生植物のうち、エビモは除草剤濃度のピークと合致して被度が減少した。モンテカルロ並べ換え検定の結果、ベンスルフロンメチルだけが有意な効果を示し(P = 0.046)、SU剤の中では、この成分を使用する製剤が最もリスクの高い除草剤であると推定された。