| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) A2-06
徳島県阿南市大潟干潟は,漁港拡張埋め立て工事に伴い航路浚渫土(細粒分:90%以上),及び山土(粗粒分:70%以上)による盛り土を行った結果,意図せず創出された干潟である.創出後15年が経過した現在,この干潟には徳島県RDB指定種14種を含む多くのベントスが生息している.演者らは,創出干潟に優占して生息する希少ベントス,シオマネキとフトヘナタリに注目し,新規生息地創出実験,及び自然干潟との個体群比較調査を4年間実施した.本講演では,創出・自然干潟における2種の分布特性を比較検証し,干潟創出に向けた生態学的留意点を考察する.
両種の分布特性の違いは明確であり,シオマネキは泥質底に対する選好性が強く,細粒分の卓越した浚渫土及び泥土底のみに出現した.一方フトヘナタリは,砂質・山土底における生息数が泥質・浚渫土底を上回ったが,シオマネキほど基質選好性は強くなかった.
また,新たな生息地創出に対する時間的反応は,種により大きく異なった.実験区への移入はシオマネキが早かったが,1年で密度の増加は頭打ちとなり新規加入も極めて少なく,4年経過した後も自然干潟の水準に達しなかった.一方フトヘナタリは, 初期反応は遅かったものの継続的に密度が増加し,新規加入も順調に起こり,4年経過時には自然干潟と同様な状況となった.
以上のように,希少種を含む多様な生物が生息する干潟創出の実現には,種による分布特性の違い,及びその要因となる生態的特性と環境条件との関連性を理解し,より多くの種が生息可能な条件を設定することが重要である.さらに,その評価過程においては,種間の環境に対する時間的反応性,生活史,寿命等の違いを考慮した,長期的な実験・観察が必要であることが示唆された.
本報告は,水産庁・水産基盤整備調査委託事業の成果の一部である.