| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) C1-09
里山景観の特徴の一つは、森林・農地・住宅地等の異なる土地利用区分がモザイク状に配置されていることである。この土地利用のモザイクは、社会経済情勢の推移に伴って変化し、地域全体の生物相に影響すると思われる。そこで、滋賀県大津市南大萱地区に残る古文書を基に、過去320年間の土地利用の変遷を明らかにし、各土地利用区分に生育する生物相の違いを調査した。
南大萱地区には、1877年に作成された地籍図と、1690年以降数十年おきに作成された7年代分の地籍簿が保存されている。地籍図には地区の形と地番や小字の境界が示されており、地籍簿には地番ベースで森林・水田・畑・住宅地等の土地利用が記されている。この二つを対応させることで、1690年・1778年・1877年・2004年の森林・水田・畑・住宅地・水域の面積の変化を解析した。
里山景観を構成する各土地利用区分の面積は、年によって推移した。1690年には森林が最も広い面積を占めていたが(58%)、1877年には地区の68%が農地になり、さらに2004年には住宅地の専有面積が最も広かった(69%)。
土地利用のモザイク構造も、年によって変化した。1690年には、モザイクのパッチ数は78であったが、1877年には210に増え、その後2004年には87に減少した。また、平均パッチサイズは、1877年で最も小さく、0.022 km2であった。
これらの結果から、里山景観を構成する各土地利用区分の面積だけでなく、モザイクの構造も時代によって変化したことが明らかになった。さらに、森林・農地・住宅地における鳥類の分布を調査したところ、鳥類相が大きく異なることが明らかになったことから、過去320年間の里山景観の変遷に応じて、地区の生物多様性も変化したと思われる。