| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) C2-05

本州日本海側山地の亜高山・高山植生史の再検討

沖津 進(千葉大・園芸学研究科)

本州日本海側山地の亜高山域には,湿潤多雪環境のもと,オオシラビソ林,ダケカンバ林,ハイマツ低木林,雪田植生などの多様な植物群が分布している.こうした植生の成立過程は,従来,中部山岳地帯には森林限界の標高1000m付近まで寒冷乾燥環境に適応した大陸型針葉樹林が成立しており,オオシラビソは大型植物化石が全く産出せず,分布量は極めて少なかった.この上部は東シベリア要素と周北極要素からなる乾燥した高山荒原となっていた.この復元像の問題点は,種レベルでの同定が可能な大型植物化石の調査例がないために,現在の湿潤多雪環境に適応した植生の生い立ちを具体的に理解できない,現在の日本海側山地の植物群や環境とあまりにもかけ離れていて,現在へ至る説得的な変遷史が構築できない,ことである.亜高山・高山植生史を再検討するために,本州中部日本海側山地亜高山域の主な植生を取り上げ,極東ロシア沿岸,海洋域の対応植生との植生地理的関係を議論した.亜高山域は高木林域と低木林域から構成される.高木林域の主要植生はオオシラビソ林,ダケカンバ林,広葉草原(お花畑),偽高山植生,低木林域の主要植生はハイマツ低木林,雪田植生,風衝植生,荒原植生である.偽高山植生を除く7タイプの主要構成種の組成や分布地理を検討した.重複も含めた分布地理を見るとオホーツク沿岸型が5タイプ,東シベリア型が3タイプ,環北太平洋型(ベーリング要素型)が2タイプ,周北極型は1タイプであった.日本海側山地亜高山植生は太平洋北部の湿潤気候に分布の本拠を置くことがわかる.これらの植生地理的議論から,最終氷期の亜高山植生は,現在推定されている状態と異なり,湿潤気候要素が地形的すみわけをしながら点在分布し,それらのレフュージアとなっていたことが想定される.


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