| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) C2-07
かつて日本各地の沖積平野に広がっていた氾濫原湿地は、圃場整備によってそれらの多くが干拓され、主に乾田として利用されてきた。農業用水路では、構造を土水路からコンクリート水路へと改築する工事が進められた。これらの人為的改変によって損なわれた植物種多様性を保全していくためには、まず、改変後の低地水田地帯における広域的な植物分布と、それを規定する要因を明らかにする必要がある。
本研究では、越後平野の氾濫原湿地に造成された水田地帯(約500km2)において、土地利用形態別(耕作水田68筆、休耕田68筆、土水路56本、コンクリート水路65本)に植生調査を行った。各圃場・水路において、10個の1m2の植生調査枠から成るベルトを1本設置し、夏季と秋季の二回、各枠に出現した維管束植物の種名を記録した。記録された植物種は原産・生活型・水湿生種か否か、について分類した。さらに、各圃場・水路の立地(高位三角州・谷底平野・海岸低地)について分類した。
土地利用形態と立地がベルトあたりの出現種数に与える影響について解析し、以下の結果を得た: (1)耕作水田では、現代稲作の攪乱体制に適応可能な種が安定的に出現、ベルトあたりの種数は多いがβ多様性に乏しい。(2)休耕田では、ベルトあたりの在来種数・水湿生種数が最大であり、β多様性にも富む。(3)土水路では、ベルトあたりの種数は少ないものの、固有の水湿生種(絶滅危惧種含む)が突出して多い。(4)コンクリート水路では、どの生活型の種数も著しく少ない。(5)山麓部に位置する谷底平野では、ほとんどの生活型で種数が多くなる。以上の結果をもとに、低地水田地帯における植物分布についてまとめると共に、水湿生種の保全に有効な水田地帯の管理体制について言及する。