| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-07

カタクチイワシの栄養段階と食源ーバルク窒素・炭素及びアミノ酸窒素同位体分析に基づく

*宮地俊作,馬谷原武之(日大院生物資源),對馬孝治,笹田勝寛,河野英一(日大生物資源科学),小川奈々子,力石嘉人,大河内直彦(JAMSTEC)

bulk安定同位体分析は,食物網構造について多くの生態学研究で用いられてきた.これまで著者らはポスターセッション(ESJ54, 55)で発表してきたように,相模湾においてbulk δ15Nの幅広い変異がカタクチイワシ(Engraulis japonicus)の中に見つけられていた.この原因として考えられるものは,個体群の中で各個体の栄養段階が異なるか,各個体の食源のδ15Nが異なるかのどちらかである.これをbulk法で解明するには、ピコ植物プランクトンのような基礎になっている一次生産者のδ15Nを測定することが必要である.しかしながら,実際の海洋生態系で生産者の妥当なbulkδ15N値を測定することには困難があった.

栄養段階決定のために一次生産者を採捕/分析せずに,捕食者だけのアミノ酸毎のδ15Nを調べる方法がある.われわれは,このアミノ酸法を用いてカタクチイワシはどちらの個体でも栄養段階は3であることを実際の食物網において初めて示す.これを基にその食源を復元したところbulk δ15N値の広い変異は, 捕食者の食源のδ15Nが異なることに由来することが明らかにされた.

さらに,2010年9月から10月に行われた中央水産研究所の調査船による貧栄養な外洋域のカタクチイワシの提供を受け,分析し比較した.その結果,bulk δ15N値が比較的低いカタクチイワシの食源は,外洋の貧栄養な太平洋生態系のN循環におけるcyanobacteria(e.g. Synechococcus sp.)のかかわりが示唆される.今回用いたアミノ酸法と,これによって解明された事実は,今後,海洋生態系におけるtrophic relationshipsとmaterial cycleの研究に貢献するだろう.


日本生態学会