| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) D1-10
植物から供給されるリターの大半は微生物分解を経てCO2 となるが、一部は土壌鉱物との反応などにより安定化する。このため、土壌には分解・安定化程度の異なる炭素が蓄積され、陸域最大の炭素プールとなっている。生態系モデルにおいて、土壌炭素は、分解速度(つまり平均滞留時間)の異なる複数のプールから構成されるが、どの炭素プールも同一の温度依存性(Q10)を持つと仮定されている。一方、化学反応および酵素反応の熱力学的な理論は、難分解性の基質(つまり分解速度が遅い炭素プール)ほど、分解反応の温度依存性が上がることを予測する。また近年の実測研究では、Q10の基質コントロール仮説を支持する例が増えてきている。我々は、基質コントロール仮説の厳密な検証には、土壌炭素中の基質の定量化手法の確立、そして基質の質・量とQ10の対応関係の解明が必要と考え、気候、地形、土壌母材条件が同一であり土壌炭素含量が大きく異なる4つの畑地表層土壌の比較を行った。不耕起・落葉堆肥区、耕起区I、II、裸地区の順に、土壌炭素含量(TOC)は15%から4%に低下した。TOCと線形的に対応し、微生物バイオマスC、培養実験(15,25,35℃)による1ヶ月間の微生物呼吸量は減少した。一方、分解のQ10は、TOCの低下に伴い非線形的な上昇傾向を示した。このQ10変動は上記パラメーターおよび土壌全炭素の炭素構造(13C核磁気共鳴法から推定)では説明できず、各土壌の低比重画分の炭素構造とのみ有意な相関を示した。よって、鉱物の安定化作用を受ける高比重画分中の土壌炭素は短期的な基質とはなり難く、鉱物フリーの低比重画分中の炭素構造が微生物分解のQ10を支配すると考えられた。以上の結果は、現在使われているシュミレーションモデルは、温暖化に対する微生物分解速度を過小評価している可能性を示唆する。