| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) D2-04
湖沼において菌類は注目されてこず、その群集構造や多様性はほとんど明らかになっていない。近年、菌類の中でも寄生性のツボカビが湖沼食物網において重要な役割を果たす可能性が浮かび上がってきた。そこで、本研究では、ツボカビを含めた菌類群集の種組成、および植物プランクトン寄生性ツボカビの季節変動パターンを調べることを目的とした。
2008年5月から2009年10月の間、西印旛沼(千葉県)にて湖水を採取し、湖水中に含まれる菌類の18S rRNAをターゲットに、DGGE法(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)により菌類群集の種組成を調べた。また、2006年から2008年に採取した湖水を染色液(Calcofluor white)にて染色し、蛍光顕微鏡下にてツボカビの種組成と密度(胞子体数)を調べた。
DGGE法により多くのバンドが確認され、多様な真菌類が存在する事が示唆された。出現したバンドの中から24本のバンドを切り取り、シークエンスした結果、16本のバンドにツボカビ様の配列が認められた。ChytridiumやRhizophydiumなど植物プランクトンに寄生する種類だけでなく、有機物を分解する種類も認められ、印旛沼には多様なツボカビが存在する可能性が示唆された。
印旛沼の植物プランクトン優占種である珪藻Aulacoseira属2種にツボカビが高い頻度で寄生している事が明らかとなった。珪藻2種に寄生するツボカビは形態が異なることから、別種であると考えられる。ツボカビの密度を求めたところ、1ml中に400胞子存在することが明らかになった。遊走子に換算すると1mlに4000細胞と、鞭毛虫の密度に匹敵するほどである。遊走子はミジンコなどの動物プランクトンにとって良い餌であり、ツボカビを介した物質経路(Mycoloop)が印旛沼など富栄養湖において重要である可能性が示唆された。