| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-11

半自然草原での多様性・生産性関係

*鈴木亮(筑波大・菅平セ), 田中健太(筑波大・菅平セ)

植物の種多様性が高いほど生産性が高くなるという多様性-生産性仮説は、生態学において最も盛んに検討されてきた仮説の一つである。しかし、この仮説は大きな矛盾に直面している。種数を制御した人工草本群落では、多様性と生産性が正の相関を示すのに対し、自然植物群落ではしばしば負の相関が見いだされるのである。我々は、この矛盾を説明するために、競争と遷移の進行とともに多様性-生産性関係が変化するという仮説を提起する。この仮説では、①遷移とともに生産性の高い種の優占度が上がり群落の均等度が下がる、②均等度が低い群落には生産性が高い種が多いので群落の生産性も高くなる、③そのため、多様性-生産性の相関は遷移とともに正から負に変化する、と予測する。

これらの予測を確かめるため、秋の草刈によって70年間以上維持されてきた菅平の半自然草原を対象に、遷移初期と後期の場所で均等度・多様性・生産性を比較した。元の草原を遷移後期とみなすとともに、2010年5月に耕起を行って遷移初期区を作った。7・8月に、遷移後期区と初期区に、各20と60か所の調査区を設置し、1 x 0.1 mの範囲で地上部を刈り取り、種ごとに乾重を測定して生産性の指標とした。

その結果、①Pielou均等度は、遷移初期区の方が後期区より高かった。②両処理区共に均等度と生産性は負に相関している傾向があった。③遷移初期区では種数と生産性が正に相関していたのに対し、遷移後期区ではShannon多様度と生産性が負に相関していた。

以上の結果は、上記の3つの予測を支持している。これまでの人工群落実験では、種の優占度が均等になるよう操作されており、本研究の遷移初期区の状態に近いと考えられる。多様性-生産性関係の統一的な理解には、出現種の均等度を考慮する必要がある。


日本生態学会