| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) E1-01
多くの可携巣トビケラの幼虫は,川底質の砂から適切な巣材を選び,それらを綴り合せて筒巣をつくる.一般的な種は,体との摩擦を軽減するために巣内壁に分泌物で内張りをするが,フトヒゲトビケラ科(Odontoceridae)は例外的に内張りを行わず,代わりに表面が滑らかな砂(石英など)を選り分けて巣材として使う.しかし,幼虫は成長に伴い,より大きな巣材を必要とする.このことから,底質中の滑らかな砂の豊富さが,その粒径によって異なる場合,選択する(探す) コストも成長段階により変化し,結果,選好度が変化することが考えられた.
そこで,大きい粒径ほど滑らかな砂の含有率が少ない底質を持つ,花崗岩由来の川で採取した本科に,表面粗さが異なる2種の人工砂(粗い,滑らか)を同数づつ混ぜた底質で,砂巣材を選択させる実験を行い,成長による選好性の変化を見た.また,野外における底質と,巣に使われている砂の表面粗さと鉱物組成を粒径別に測定し,実験で見積もられた選好度の変化と比較した.
その結果,当該の花崗岩由来の底質は,小さい粒径ほど石英の含有率が高く(即ち滑らかな砂が多い),大きい粒径ほど長石の含有率が高く,滑らかな砂が少なくなることが分かった.選択実験においても,小さな砂を必要とする未熟幼虫は,滑らかな砂の選好性が高いが,成長に伴い,選好性が低くなることが分かった.
この結果から,最適理論から予想されるように,底質の鉱物組成の粒径変化によって選好度(資源選択の意思決定)が変化することが示唆された,さらに本結果を元に,滑らかな砂が豊富な環境下で育てる移植実験を行い,この意思決定の変化のメカニズム(遺伝的規定か、学習か)を探った.本発表ではその結果とともに,今後の展望として学習能力の地域変異の可能性を議論する.