| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-02

傷ついたことを知った親は:保育行動における外傷への補償戦略

*馬場成実(九大院・生防研),弘中満太郎(浜松医大・生物),上野高敏(九大院・生防研)

動物の親は生理状態や環境条件の変化をキューとして、将来を反映させた当座の投資配分を行う.特に「老化・病気感染のような期待寿命に関わる要因」や「投資量に直接的に関わる飢餓経験」などへのストレス反応が、投資配分の決定に強く関与すると考えられている.一方で、「外傷」などの不快刺激による侵害受容型ストレス反応が、親の投資配分の決定にどのような影響を与えるかは全くの未知である.さらに他のストレス反応とは異なり、外傷はその反応部位が生体全体ではなく、一部に限定される.そのため、どの部位を損失するかにより投資への影響が異なると予想され、投資配分の可塑性を理解する上で興味深い.

今回我々は、亜社会性のシロヘリツチカメムシの保育における投資に注目して、1)外傷部位ごとに投資への影響は異なるか、2)外傷に対する投資分配の可塑性はみられるか、3)それは外傷部位を弁別した反応を示すか、について調べた.本種の雌親は子への初期投資として栄養卵を産生し、その後、寄主種子の運搬によって給餌する.産卵前の雌親の片側の後脚、触角、前翅をそれぞれ基部から切除したところ、後脚及び触角を失った雌親の種子給餌量は減ったが、前翅を失っても変化はみられなかった.また、後脚及び触角の処理により栄養卵給餌量は増えたが、前翅の切除では変化はなかった.外傷処理した雌親の生存日数は減少したが、部位ごとに差はなかった.以上より、1)外傷部位ごとに種子給餌量の低下の程度が異なること、2)外傷による種子給餌量の低下は栄養卵で補償されること、3)外傷部位を反映して栄養卵投資への配分を決定すること、が分かった.本種は外傷に対する侵害受容型ストレス反応の結果として、その反応部位ごとに生じる投資への影響の違いを弁別した補償機構を獲得している.


日本生態学会