| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) E1-04
動物の中には、他種の警戒声を盗聴して利用する種が数多く存在する。他種警戒声の盗聴行動は、本来想定された受信者でない動物が発信者の対捕食者警戒声を盗み聞きして、対捕食者行動を行うような行動である。これまでの他種警戒声の盗聴に関する研究は、警戒声の進化や学習、新たな相利的な種間関係の発見といった観点から行われることが多かった。本発表では、警戒声の盗聴行動に関する研究例を挙げ、近年の研究の傾向を紹介する。
盗聴行動の研究は、種内で音声コミュニケーションを頻繁に行う鳥類や哺乳類を対象に行われることが多い。しかし、本研究で対象とした盗聴行動は、種内で音声コミュニケーションを行わないトカゲ類二種、ブキオトカゲOplurus cuvieriとカタトカゲZonosaurus laticaudatusによるマダガスカルサンコウチョウTerpsiphone mutataの警戒声の盗聴行動である。これらのトカゲ類は、サンコウチョウのモビングの際に発する警戒声を盗聴する。盗聴行動の存在が明らかにされるまで、音声を発しないこれら二種のトカゲ類と警戒声を発するサンコウチョウの生物群集における生態的な関係は、被食―捕食関係や競争関係などといった直接的な生態的関係がない、無関係とされてきた。しかし、これらのトカゲ類とサンコウチョウの間には、盗聴を介した新しい非対称な種間関係が存在することが示された。そこで、この新たな種間関係に注目し、生物群集における生態的な地位と警戒声の信頼性という観点から盗聴行動に関する研究の新たな展開について議論する。