| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-10

ヤマトシロアリの単為生殖による女王位継承システムの進化的安定性

*松浦健二, 山本結花, 矢代敏久, 日室千尋, 横井智之(岡山大・院環境・昆虫生態)

近年、独立に高度な真社会性を発達させたアリとシロアリにおいて、女王が産雌単為生殖で女王を生産する種が相次いで発見され、社会性昆虫にとっての性の利益とコストを議論する上できわめて重要なテーマとなっている。ヤマトシロアリの創設女王は、二次女王(巣内で生殖を引き継ぐ)を単為生殖で生産し、一方、ワーカーや有翅虫は有性生殖で生産している(Matsuura et al. 2009, Science)。この単為生殖による女王継承システムAQS(Asexual Queen Succession)により、女王は自分の分身を二次女王として残し、死後も次世代への遺伝的寄与を完全に維持する。

アリの新女王の単為生殖生産とシロアリのAQSシステムは、一見似ているように見えるが、次世代への遺伝貢献を巡るコンフリクトの点で根本的に異なる。アリでは、女王側の一方的な利己的戦略として新女王が単為生殖で生産され、この場合、雄アリは次世代に遺伝子を残す術を失い、激しい性的対立を伴った進化的袋小路となる。このような種では、繁殖システムに地理的変異があることが知られており、通常の有性生殖で新女王を生産している集団も見つかっている。

一方、シロアリのAQSは創設女王の次世代への遺伝的寄与を維持するだけでなく、近親交配回避や末端融合型オートミクシスによる劣勢有害遺伝子の排除を通じて王や他のメンバーにとっての利益をもたらし、コロニー内対立を生まない。よって、一旦、雌が単為生殖を獲得し、AQSが進化すると、その形質は速やかに広まることが予測される。本研究では、関東、関西、および中国地域における広域サンプリング調査を行い、各コロニーから生殖中枢を採集し、遺伝子解析を行ったところ、すべての地域においてAQSが行われていることが分かった。本講演では、AQSの適応的意義と進化的安定性について議論する。


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