| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) F1-01
道東・標津町では、近年ヒグマ(Ursus arctos)の目撃情報が増加しており、人との軋轢の高まりが懸念されている。しかしながら、有効なヒグマ保護管理策を策定するための生態学的情報が不足しているのが現状である。そこで、ヒグマの行動圏、土地利用ならびに移動ルートを把握するために、新たに携帯電話のGPSシステムを活用した発信機を開発し、リアルタイム通信によるヒグマ行動追跡を行ったので報告する。
2009~2010年に標津町で8頭のヒグマを捕獲し、7頭(すべて雄、体重48~367㎏)の行動を追跡した。追跡期間は1~51日間であった。ヒグマを捕獲した場合、基本的に翌日に麻酔をかけ発信機を装着して野外に放獣した。麻酔には、塩酸ゾラゼパムと塩酸チレタミンの混合液(ゾレチル、ビルバック社)と塩酸メデトミジン(ドミトール、明治製菓)を使用した。体重測定、採血、各部身体計測、発信機装着、抜歯および耳標装着を行った後、ドミトールに対する拮抗薬、塩酸アチパメゾール(アンチセダン、明治製菓)を投与して覚醒を促した。その結果、全個体がハンドリングの翌日には移動を開始した。最も長期にわたって行動を追跡できた個体の移動距離は平均7.1km/日であった。行動圏については算定できなかったが、知床半島基部から別海町まで南北に大きく移動する傾向にあった。主に河川沿いや林帯を利用して移動し、海岸付近から山間部まで全ての環境を利用していた。以上のように、今回新たに開発した発信機はヒグマ行動追跡に有効であることがわかった。
本研究は、セブンイレブンみどりの基金、ニトリ北海道応援基金および三井物産環境基金の助成を受けて行われた。