| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) F1-10
海洋生物は、基本的に浮遊幼生期に移動分散を行うため、大きな生息地パッチだけではなく、小さな生息地パッチにも定着・定住が可能である。しかし、生息地保全等の対象としては、大パッチのみが注目される傾向にある。例えば、多様な魚類等が生息するサンゴ礁では、大規模なサンゴ群落を有する場所は海洋保護区として検討されうるが、小さなパッチリーフの散在する場所が注目されることはない。小パッチ群でも大パッチと同等な総面積とサンゴの被度があれば、生息種数は同等と考えられよう。これまでの著者らの石垣島白保サンゴ礁におけるスズメダイ科魚類の種数面積関係の研究では、むしろ、小パッチ群の方で生息種数が多いことが示された(Hattori & Shibuno 2010)。大パッチではなわばり制藻食魚による負の種間関係が存在しうるが、小パッチではほぼランダムな定着によってのみ生息種が決まるからである。しかし、実際には、なわばり制藻食魚の中には、負の影響を示さない種も存在し,大パッチでは想定外の要因が負の影響を及ぼしていると考えられた。本研究では、まず、なわばり制藻食魚の3種(ハナナガスズメダイ、クロソラスズメダイ、スズメダイモドキ)の空間配置を観察し、大パッチの高パッチでは垂直面と水平面を種間で使い分けることを見いだした。また、プランクトン食魚の一部についても高パッチで生息種数が多い傾向が示された。そこで、全パッチ高を計測し、パッチ面積とサンゴ被度に加えて説明変数を増やすと、生息種数予測の回帰関数の寄与率は上昇した。また、リーフ高と面積の回帰分析の結果は、大パッチでは相対的にリーフ高が大きくならないことを示した。パッチリーフの投影面積だけでは生息種数の予測に限界があるが、リーフ高とサンゴ被度のデータを加えれば、ある程度生息種数を予測でき、生息地パッチ群の質を評価できるのではないだろうか。