| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) G1-01
果実食性を示す多くの霊長類は、群れの遊動域内の生息地利用のパターンを生息地の果実資源量の季節的な変化に応じて大きく変化させることが知られている。また、いくつかの種において、遊動域内の果実量の季節的な減少に応じて群れの凝集性を低め、小さなパーティを形成することが報告されている。アフリカ熱帯雨林に生息する霊長類であるマンドリル(Mandrillus sphinx)は、数百個体にも及ぶ非常に大きな群れを形成し100km2を超える広い遊動域をもつことがあるが、生息地利用や凝集性の季節的な変化の有無や傾向についてはほとんど明らかにされていない。
発表者はガボン共和国、ムカラバ‐ドゥドゥ国立公園内に約30km2の探索域を設定し、探索域内を年間遊動域の一部としていると考えられる、群れサイズおよそ200個体と推定されるマンドリルの群れを対象として、行動観察と糞の内容物分析を実施した。また、同時期の結実フェノロジーの推移についても、落下果実センサスによって評価した。
探索域内における集団の発見率は探索域の結実種数に相関し、多くの果実が結実する時季ほどマンドリルの発見頻度が高かった。また、発見頻度が高かった時季は果実食性を最も高く示す時季と一致した。さらに、発見したパーティの推計個体数はその時の食性によって異なり、果実をより多く採食する時季には50個体未満の小さなパーティが他の時季に比べ多く観察され、一方で、地中の根や樹皮、昆虫類を多く採食する時季には150個体以上の大きなパーティが観察された。
マンドリルの群れは結実フェノロジーに応じて生息地利用パターンを変化させ、少なくともある時季には、遊動域の一部を偏って集中的に利用することが示唆された。また、多くの霊長類と異なり、果実食性傾向の高まりに応じて群れの分派を促進させ、パッチ状に分散した果実を効率よく採食することを可能にしていると考えられる。