| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) G1-05
年中高温な熱帯に生息する昆虫の個体数は、温帯とは異なり1年を通して恒常的だと信じられてきた。ところが、熱帯でも雨量の季節変化が明瞭な季節林においては、多くの昆虫の個体数変動に年周期の季節性がみられることがわかってきた。その結果、熱帯においても生物群集全体の季節に連動した動態が普遍的な現象として知られるようになっている。しかしながら、季節林でみられる特性が他の気象条件をもつ熱帯地域でもみられるのかどうかについては詳しく検討されてこなかった。
東南アジア熱帯の中心部は、年中高温・多湿・多雨で、1年を周期とする気象の季節的な変動が弱い。これまで演者らは、この地域の植食性昆虫(甲虫目ハムシ科)の個体数動態を調べ、季節林でみられるような予測性の高い個体群動態は多くの種でみられないことを明らかにした。これらの結果は、熱帯昆虫の個体数変動様式に関する従来の定説を覆す材料となり、東南アジア熱帯の非季節林に生息する昆虫では、非季節的な個体数動態が普遍的であることを示した (Kishimoto-Yamada et al. 2010)。ところが、同じ非季節林においても、植食性コガネムシ類が顕著な季節性を示すことが報告されている (Kato et al. 2000)。今回新たに植食性コガネムシ類十数種を対象に季節性の有無を検討した結果、多くの種において顕著な季節性を確認した。こうした一連の研究によって、東南アジア熱帯の非季節林に生息する昆虫の個体数変動様式には、非季節的な側面ばかりでなく、暦上の季節に連動した季節的なパターンもみられることがわかってきた。
Kishimoto-Yamada et al. (2010) Insect Conservation and Diversity 3:266-277 / Kato et al. (2000) Population Ecology 42:97-104