| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G1-12

産卵親魚量あたり加入量における密度効果のステューデントt検定

丹羽洋智(中央水産研究所)

個体群動態における密度効果の統計的検出に比べ、親魚量あたり加入量の親魚量密度依存性の検定に関する議論は意外なほど少ない。実際、個体群動態の時系列データとランダムウォークとを比較する検定法は、Bulmer (1975)を始め、いくつも提案されているが、資源・加入量の時系列から密度効果を検定する一般的な方法はない。一方、個体群成長率の密度依存関係の散布図を描く論文は驚くほど少ないが、魚類資源の再生産関係では一般的である(プロットの暴れは概して甚だしい)。

本研究では、線形化された確率モデルを用い、資源再生産の親魚量密度効果、および散布図に負の相関関係を見つけるための条件を、システムの(再生産ダイナミクスの)平衡点からの距離、および観測期間の長さに関して明らかにする。次に、密度効果の強さの統計尺度の従う分布関数を調べ、平衡点の不確定の幅と観測期間との間の関係を、ステューデントt統計量を用い定式化する。これによって線形確率モデルから導かれた密度効果検出条件の意味を平衡点の不確定性という観点から理解する。

資源・加入量の時系列のノイズの中から密度効果のシグナルが検出されるか否かを調べずに、再生産の(アプリオリな)関係式をデータに当てはめたり、何らかの密度依存的関係式を推定したりすることは、データを読み解く上で重大な危険性を孕んでいる。Minto et al.(2008)は39魚種147個体群からなるデータセットのメタアナリシスにより、親魚量あたり加入量の変動性が資源密度に依存していると報告しているが、彼らのデータのうち密度効果が5%水準で有意なもの(102資源)だけを選ぶと、この不均一分散は支持されず、平衡点の不確定性に関係した見かけの現象であることがわかる。


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