| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G2-01

著しく異なる遺伝子型を持つ北海道マイマイガの遺伝子浸透シミュレーション

*東浦康友,澤田有莉,五十嵐章裕,宮川 毅(東京薬大・生命科学),重定南奈子(同志社大・文化情報)

日本のマイマイガは、北海道に分布する北海道亜種(Lymantria dispar praeterea)と、本州・四国・九州に分布する本州亜種(L. d. japonica)、その他の島々に分布する3亜種に分けられている(井上 1982)。Higashiura et al. (1999: Heredity 83, 290-297) は、北海道美唄市で、孵化率が約50%で生育した個体がすべてメスになる系統を発見し、この性質が母性遺伝することを報告した。Male-killingと呼ばれる現象と同じであるが、この現象にはWolbachia等の微生物は関わっていない(Higashiura et al. 2010: Heredity)。一方、Goldschmidt (1934) は、本州亜種のメスに北海道亜種のオスを交配し、そのF1メスを北海道亜種のオスと戻し交配すると、オスの子が死んでメスのみになり、また、北海道亜種のメスに本州亜種のオスを交配すると、子はオスのみになると報告している。Higashiura et al. (2010) は、この交配結果を追試・確認し、さらに北海道美唄市のメスばかりの系統のミトコンドリアDNA (mtDNA) ハプロタイプが北海道亜種のものとは約2%配列が異なる本州亜種と同じであることを発見した。つまり、形態的には北海道亜種とされるマイマイガにmtDNAハプロタイプでは2型あり、その交配によってオスの子ばかりやメスの子ばかりになると考えられ、この2型の境界は、約4万年前まで海峡であった石狩低地帯にあると考えられた。石狩低地帯を挟んで東西に2地域と、それぞれの外側に1地域ずつを設定し、流入率を変えてmtDNAハプロタイプの挙動をシミュレーションによって推定した結果を発表する。


日本生態学会