| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) G2-04
メタ群集の個体群ダイナミクスは、移動する種の栄養段階と移動の強さ、および、局所的な環境条件によって変化する。本研究では、それぞれが3栄養段階からなり、個体の移動によって相互作用する2つの食物連鎖を考え、それらの局所的な個体数振動の同期・非同期に着目する。移動の強さと、局所的な環境条件からなるパラメータ空間において、同期・非同期の各状態は広い範囲で双安定となる。このような場合、それぞれの引き込み領域の境界をまたぐような外的操作を加えれば、2つの状態が切り替わる。たとえば、同期した状態では二つの系で同時に絶滅が起こる可能性が高くなってしまうが、同期した状態から非同期の状態への切り替えができれば絶滅のリスクを回避することが可能となる。
では、どのようなタイミングで、どのような種に、どれだけの外的操作を加えれば、二つの状態を最も容易に切り替えられるだろうか?このような疑問に答えるには、引き込み領域の境界構造について知らなくてはならない。本研究では、現実的なワムシ-緑藻-栄養塩系のモデルにおいて、上位捕食者(ワムシ)を介したスイッチングが特に容易となるような、特殊な境界構造が現れることを示す。この結果は、より一般的な式で表現した3栄養段階のモデルにおいても同じであった。
このように、引き込み領域の境界構造が特定の種を介したスイッチングを容易にする場合、そのような種は少ない個体数でも小さな変更で系の状態を大きく変えてしまうという意味で、広義のキーストーン種の要件を満たす。メタ群集ダイナミクスにおいては、多重安定状態が広く見られる可能性が高く、このようなキーストーン種の特徴を探ることは重要と考えられる。