| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-06

日本産アブラゼミ類の分子系統地理

*長太伸章(京都大・理), 戸田守(琉球大・熱生圏), 曽田貞滋(京都大・理)

日本列島の生物のうち、動物・植物を含む大部分の種は朝鮮半島やユーラシア大陸から直接進出してきたと考えられる。一方、いくつかの種は南西諸島を経由して日本列島に進出してきたと考えられている。日本の夏に最も身近な昆虫の一つであるアブラゼミ属Graptopsaltriaには3種が含まれるが、中国大陸南部の内陸部にG. tienta、渡瀬線以南の中琉球地方にリュウキュウアブラゼミ、渡瀬線以北の屋久島から北海道と朝鮮半島の一部にアブラゼミが分布している。この分布からはアブラゼミ属も南西諸島経由で日本列島に進出してきたことが示唆される。このことから本属は南西諸島経由の日本列島への進出過程や、小さい島が多い南西諸島と本州など大きい島が含まれる日本列島での遺伝的構造の違いを明らかにするのに適している生物である。そこで、リュウキュウアブラゼミとアブラゼミの2種についてmtDNA COI領域と核遺伝子を用いて系統地理解析を行い、遺伝的構造を明らかにした。その結果、リュウキュウアブラゼミは分布が中琉球地方に限られるにもかかわらず非常に深く分化した3系統が認められ、地域間の分化が非常に大きかった。このことから、本種は琉球列島に古くから進出したことと、地域間での遺伝子流動が極端に制限されていることが示された。一方、アブラゼミはリュウキュウアブラゼミよりも広範囲に分布するもののリュウキュウアブラゼミほどの遺伝的多様性は見られなかった。しかし、遺伝的構造に地域性が見られ、九州・四国・西日本では遺伝的多様性が高く、東日本や東北・北海道では遺伝的多様性が低かった。これらのことからアブラゼミは南から北に分布を拡大したと考えられる。両種の種内の遺伝的分化の程度や遺伝的構造の違いは、それぞれの地域に進出してからの時間の長さと、生息地における定着性が高いことによって生じたと考えられる。


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