| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-09

遺伝変異の隠蔽機構は存在するか?:キイロショウジョウバエを用いたスクリーニング

*高橋一男(岡山大・RCIS)

遺伝的多様性は、環境要因の変化に対する進化的応答に不可欠であり、遺伝的多様性が高いほど速やかな適応、進化的応答が生じることが、理論的、実験的に知られている。近年、このような迅速な進化的応答に重要な寄与をする機構として、遺伝変異の隠蔽機構が注目されている。遺伝変異の隠蔽機構とは、発生過程を安定化することで、遺伝変異を緩衝し、表現型の多型を隠すことで、遺伝変異の集団中への蓄積を促進する機構を指したものである。先行研究により、Hsp90などの分子シャペロン遺伝子が、遺伝変異の緩衝能を持つ可能性が示唆されている。しかし、遺伝変異の制御は複数の遺伝子によって行われていると予測する理論研究もあり、遺伝変異緩衝機構の全容は未解明である。環境変異緩衝能と遺伝変異緩衝能には相関がある事が示されており、環境変異と遺伝変異が同一の機構により緩衝されている可能性が示唆されている。発表者の先行研究では、キイロショウジョウバエの翅、剛毛形質を対象として、ゲノムワイドに環境変異緩衝効果を持つゲノム領域の探索を行い、41個のゲノム領域に環境変異緩衝機能があることが特定された。本研究では、これらの領域が遺伝変異緩衝能を持つかどうかを検証することを目的とした。野生のキイロショウジョウバエの翅形態には、大きな遺伝分散があることが知られており、実際に、沖縄から札幌までをカバーする広い範囲から採集されたショウジョウバエ系統間で、翅形態には有意な遺伝的分化が観察されている。本研究では、顕著な遺伝的分化を示す野生由来系統10系統を材料として、翅形態の系統間分散(遺伝分散)に対する、上記のゲノム領域の効果を調べた。発表では、このスクリーニングの最新の結果を紹介するとともに、遺伝変異隠蔽機構の至近メカニズムや野外集団における遺伝的多様性維持機構についても考察したい。


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