| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) H1-11
種内に遺伝的多型の出現する生物では、しばしば型の比率に地理的勾配が認められる。このような勾配は「遺伝子と環境の相互作用」と「遺伝子流動」によって形成されると考えられてきた。しかし、ふつう、遺伝子流動は近隣の個体群間で起こるので、大きい空間スケールで生じる型比の勾配の成立は説明しにくいと考えられている。本研究では、雌に遺伝性の色彩2型(オス型とメス型)生じるアオモンイトトンボを用い、大きい空間スケールにおける2型比の勾配を調べるともに、その勾配の成立機構を解明するために、各型の潜在適応度の推定を行なった。2型比には、緩やかな緯度勾配が認められた。オス型の割合は、低緯度(北緯32度)では低かったが(約5%)、高緯度ほど高くなり、北緯36度でメス型を逆転し、分布北限(北緯38度)では80%に達していた。卵サイズと蔵卵数から算出した推定潜在適応度は、両型とも緯度の増加に従って直線的に増えたものの、その増加率は異なり、北緯36度以上ではオス型の方が高く、潜在適応度に関して「遺伝子と環境の相互作用」の存在することが示された。緯度と潜在適応度の関係から各緯度における2型の平衡頻度を計算すると、北緯36度を切り替え点とする断続的な地理的変異が予測された。そこで、本種においてこれまでに明らかにした2型に対する「負の頻度依存選択」の効果を考慮したところ、緩やかな緯度勾配が予測され、現実の型比の緯度勾配と良い適合を示した。これらの結果は「遺伝子と環境の相互作用」に起因する方向性選択と「負の頻度依存選択」という平衡選択の組み合わせで、大きい空間スケールにおける型比の勾配が成立することを示している。