| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) H1-12
表現型可塑性は,新奇形質獲得や新たな環境への適応という意味において,進化的に重要な性質とされる.「環境に応じてどのように形質が変化するか」は,リアクションノーム(reaction norm,反応規準、以後RNと表記)により表現されるため,これを遺伝的に異なる集団間で比較することにより,表現型と環境条件との関係がどのように進化してきたのかを考察することが可能となる.
ミジンコDaphnia pulex は、補食者のフサカ幼虫が放出するカイロモンを感受すると、頭部に突起 (neckteeth,以後NTと表記) を形成して被食を回避する表現型可塑性を示す。本属には様々な程度の防御形態を示す種が存在することなどから、集団間のRNの遺伝的な差違が形質の分化を促すと推察される。そこで本研究ではまず、カイロモン濃度に応じたD. pulex 防御形態の変化をRNとして表現し,個体群間でそのRNがどのように異なるのかを検討した.その結果、NT形成率とNT本数に関するRNが大きく異なる複数の系統を見いだした。前田森林公園系統(北海道)は、形成率も高く、生じるNTの本数も多い.NTの本数は多いほど.被食回避効率が実際に高いことも示された。
更に、RNが有意に異なる2系統を用い、NT形成に関わるとされる遺伝子の発現パターンを、リアルタイム定量PCRを用いて比較した。遺伝子発現量の変化を、カイロモン濃度に対するRNとして系統間比較を行ったところ、いくつかの形態形成因子や、インスリン経路および幼若ホルモン経路に関与する遺伝子において、発現パターンのRNに系統差が見いだされた。個体群が遺伝的に分化する過程で、捕食圧などの選択圧の差により、防御形態形成に関わる発生機構を介して、NT形成のRNを変化させてきたのだと考察される.