| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) I1-07
外来種が在来の近縁種を急速に駆逐する現象は、世界中で普遍的に生じている。しかし、そうした重要性にもかかわらず、なぜ特定の外来種が在来の近縁種を急速に駆逐するかについての生態学的な説明はほとんどない。著者らは、従来の「資源をめぐる競争」ではなく、近縁種間に潜在的にある「繁殖をめぐる干渉」こそが、急速な駆逐を説明する鍵であることを主張してきた。本講演では、繁殖をめぐる干渉が存在するかしないかで、外来種と在来種の優劣関係が劇的に変わり、分布パターンを合理的に説明できることを示す。
対象とした系は、外来のセイヨウタンポポと、在来のカンサイタンポポおよびトウカイタンポポである。在来種は、それぞれ西日本および東海地方に分布し、いずれも2倍体で自家不和合性である。両種は、滋賀県東部から岐阜県西部にかけて徐々に分布が移行し、分類学的には同種とみなされている。そして、カンサイはセイヨウに駆逐され分布域が狭くなっているが、トウカイは人為的撹乱地であってもしばしばセイヨウを圧倒する勢いを示す。この対照的な違いは、カンサイがセイヨウから花粉干渉を受ける一方で、トウカイは受けないと考えると合理的に説明できる。
そこで、この点について調べた。予測通り、カンサイはセイヨウから強い花粉干渉を受けたが、トウカイは受けなかった。この結果は、人工授粉実験でも、野外調査でもともに確認された。さらに、柱頭についたセイヨウの花粉がどのように伸長するかを調べたところ、カンサイでは花粉管が伸長し、胚に達するが、トウカイでは花粉管が全く伸長しないことが明らかとなった。以上の結果、在来タンポポのセイヨウに対する生態的有利不利は、花粉をめぐる干渉の有無によって簡単に説明できることが確かめられた。