| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) I2-10
【目的】種子形質には,種内のみならず同一樹木個体内においてもしばしば著しい変異が存在する.樹木個体の変数として,種子形質の平均値は様々な解析に用いられるが,個体内のばらつきはほとんど注目されてこなかった.しかし,近年ばらつきの程度を樹木個体の変数として解析し,個体内変異の大きさが持つ適応的な意義を検証することの重要性が指摘されている.本研究では,コナラを対象として,種子形質(サイズ及びタンニン含有率)の平均及びばらつきが,樹木個体の繁殖成功へ与える影響について検証した.
【方法】調査は,岩手大学滝沢演習林で実施した.26本の母樹から採取した種子のサイズとタンニン含有率を測定し,個々にマークした後に樹冠下に戻し,その後のSeed fateを追跡した.なお,タンニン含有率は,近赤外分光法を用いて非破壊的に測定した.繁殖成功の要素である種子散布成功と実生発生成功の2つを応答変数とし,種子形質の平均とばらつき(変動係数)を説明変数として,GAM(generalized additive model)によって解析を行った.
【結果・考察】種子散布成功は,種子サイズの平均が中程度でばらつきが小さい個体ほど低い傾向が認められた.これは大型散布者であるアカネズミやカケスと小型散布者のヤマガラとの種子選択の違いを反映した結果であると考えられた.また,実生発生成功は,種子サイズの平均とばらつきが小さく,タンニン含有率の平均とばらつきが大きい個体ほど,高いことが示された.主要捕食者であるアカネズミは,大型でタンニン含有率の低い種子を選択的に採餌する傾向を持つ.さらに,この結果は,タンニン含有率に対しては,ばらつきを避けるような採餌傾向があったことを示している.本研究によって,種子形質の平均値ばかりではなく,ばらつきの程度が植物個体の繁殖成功に重要な影響を持つことが示された.