| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) J1-11

一斉開花が樹木の肥大成長と炭素固定に与える影響

*中川弥智子(名大・生命農),片山歩美(九大・演習林),中静透(東北大・生命)

東南アジア低地熱帯雨林では、不定期な間隔で起こる群集レベルでのマスティング、一斉開花という現象が知られており、大量の花や果実が一度に生産されるため、一斉開花期間中は多くの資源が繁殖に利用されると予測される。他方で、樹木が利用できる資源には限りがあるため、成長や繁殖のために適切な資源配分を行っていると考えられる。したがって、一斉開花期間の樹木の成長は、非一斉開花期間に比べて低下する可能性があるが、年輪が明瞭でないことが原因となって、これまで検証されてこなかった。また、短期間の乾燥が落葉・展葉をもたらすことが報告されていることから、降水量も肥大成長に影響を及ぼす可能性がある。そこで本研究では、ほぼ毎年実施された毎木調査の肥大成長データ、リタートラップによる繁殖器官量の変動データ、および降水量データを用いて、一斉開花や乾燥が群集レベルでの樹木の肥大成長と炭素固定に与える影響について解析した。

調査は、マレーシア・サラワク州・ランビルヒルズ国立公園のクレーンプロット(4ヘクタール)において、2000年から2010年にかけて実施した。肥大成長に影響を及ぼす要因は一般化線形混合モデルで解析し、地上部炭素固定量は山倉ら(1986)のアロメトリー式より計算した。その結果、群集全体(1972個体、374種)、および主要な林冠構成種を多く含むフタバガキ科全体(425個体、44種)のどちらにおいても、樹木サイズ(正)と繁殖器官量(負)の有意な効果が検出された。また、繁殖器官量が多いほど地上部炭素固定量は少なかったことより、一斉開花が起こると繁殖への資源配分が増加するため、肥大成長と炭素固定量が低下することが示唆された。


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