| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-004
近年、管理放棄された里山の増加により、里山の生物多様性は低下していると言われている。その原因の一つとして、かつては資源として利用・管理されてきたクズの過剰な繁茂が挙げられる。また、クズの繁茂は景観の単一化にもつながっており、クズの管理は生物多様性や景観の保全に重要なことと考えられる。本研究は、草刈りという古典的な管理方法がクズ群落に対してどのような影響を与えるかを、生物多様性と微気候の面から調査し、適切な草刈りの程度を知ることで、里山の草地における植物種の多様性の保全、景観の改善、および除草剤を用いないクズの抑制を目的としている。
調査は近畿大学奈良キャンパス(奈良市中町)内のクズ・セイタカアワダチソウ群落で2010年5月から行なっている。調査区は草刈りを行う地区(草刈り区)と行わない地区(対照区)を設定した。草刈り区では7月末と9月末に草刈りを行った。調査項目は、両区の種数、個体数、被度、クズの草高、地温と、対照区内の日射量、高さごとの気温である。
草刈り後にアキノエノコログサ、ヤブジラミ、ヤエムグラの3種は個体数が著しく増加した。草刈り区では種数の増加がみられたが、対照区では8月以降新しい種は記録されなかった。また、対照区ではクズの被度およびクズの草高は8月後半に最大値を記録し、以降減少していった。クズは夏季における日射を著しく阻害するが、葉が枯れ落ちる冬季になると、日射を阻害する割合は減っていった。気温に関しては120~200cmの高さでは直射日光の影響を強く受けたが、0~40cmの高さではキャンパス内にある気象観測基準点の気温より低い値が記録された。また、夜間の最低気温はいずれも気象観測基準点のそれを下回った。地温は2つの地区の間で夏期の温度上昇と冬期の温度低下にそれぞれ有意差が見られた。