| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-078
一般に,個葉の光合成能力はクロロフィル量や窒素(N)量などと共に展葉完了時に最大となり,その後加齢に伴って低下する。しかしながら,カシ類を含む常緑樹には展葉完了後も光合成能力,クロロフィル量,N量が最大にならず,展葉完了から数週間から数ヶ月遅れて最大に達するdelayed greening(遅延緑化)という現象を示す樹種がある。本研究では,暖温帯の北限域近くに生育するカシ類4種,アカガシ,アラカシ,イチイガシおよびウラジロガシについて,delayed greeningが個葉の光合成能力やN利用に及ぼす影響について検討した。
成木の陽シュートについて,フェノロジー,シュート構造,当年および1年葉の光合成能力(A),光合成窒素利用効率(PNUE),葉N濃度,SPAD値および面積あたりの葉乾重(LMA)の季節変化を測定した。葉面積が最大になってからSPAD値が最大になるまでの日数を遅延期間として計算した。
LMAが高い樹種ほど,また冬芽の開芽時期が早い樹種ほど遅延期間は長かった。結果として,冬芽の開芽時期と緑化完了時期は一致しなかった。緑化完了時期が遅い樹種ほどPNUEや重量あたりのAが高く,1年葉の光合成寄与が高かった。冬芽の開芽時期が遅い樹種ほど当年生シュートあたりNあたりの葉面積が大きかった。LMAや葉寿命と,重量あたりのA,PNUE,葉N濃度の間には有意な相関は認められなかった。こうした結果から,研究したカシ類4種では,開芽が遅いことによる光合成可能期間の短縮を形態面から葉面積を広げる窒素利用で相殺し,delayed greeningによる光合成可能期間の短縮を生理面から光合成能力を高める窒素利用で相殺する戦略をとっていることが示唆された。またこうした戦略が,よく知られる葉寿命,LMA,光合成能力,Nのトレードオフ関係の制約になっていると考えられた。